私が考える「いい家」とは、しっかりとした「どんな住まいにもあるべきもの」を備えながら、そのベースの上に「住まい手らしさ」を生み出すような家
です。このどちらが欠けても「いい家」にならないと思いますし、とくに「住まい手らしさ」が備わった家ではとても深い満足度が得られます。「この家は間違
いなく自分たちの家だなあ」と深く実感してもらえます。
この「住まい手らしさ」とは次のようなものです。
- 家族構成や家族の人数
→1世帯?2世帯?それとも3世帯? - 目指したい家族関係
→家族みんながおばあちゃんを大切に、子供とたくさん会話したい、など - 子育ての考え方
→家の中でもできるだけ自由に走り回らせたい、動の時間と静の時間のケジメをつけたい、庭で遊べるようにしたい、など - 将来の家族構成
→男の子は大学生になったら外に出すと決めている、など - 日々の家族それぞれの動き
→共働きで忙しい、来客が多い、奥さんは家で教室を始める、朝しか家族が集まれない、など - 家族それぞれの趣味や休日の過ごし方
→家族で楽器演奏をする、お父さんは日曜大工が趣味、自家菜園でつくった野菜を収穫して料理する、など - 料理や食事について
→週末は家族みんなで料理する、子供の様子を見ながら料理したい、など」 - 空間イメージについて
→ 窓を開ければ外と一体になるようなLDがほしい、いま住んでいる家の梁を再利用して見せたい、床にモノをできるだけ置きたくない、寒がりが多いのでとにかく暖かく、など - 家具や収納
→ 新しい家に持ち込む家具が結構多い、モノが多い、新しい家に絶対置きたいダイニングテーブルがある、3台もある自転車を屋根のある場所に置きたい、など
こうした「その家族に固有なもの」はたくさんあります。ほとんどの家では、それに合わせるように何とかやりくりをしているはずですが、それには大きな限界があります。ほとんどの人はその限界を感じながら暮らしています。
せっかく、たくさんのお金と時間を使って新しい住まいをつくるわけですから、そんな限界や不満を解消させるべきです。そのお手伝いをするの
が私のような「設計者」の大きな役目だと思っていますし、そのお手伝いは「その家族に固有なもの」にマッチしたような住まいを「かたち」として具体的に提案することです。そのためには、とにかくその家族のみなさんとたくさん会話をすることが大切だと思っています。いろんな話題の会話を重ねることで、「その家族に固有なもの」が見えてきます。
私は最初から「どういう間取りにしましょう?」とか「どれくらいの大きさの部屋がほしいですか?」というような話はしません。そんな話を最初にしてしまうと、そこに縛られ、自由な発想でその家族に合った住まいが見つけられなくなるからです。それよりも、もっと自由に「暮らし」についての会話を弾ませたほうが、「新しい住まいで実現させたい、新しい暮らし」が見えてくるのです。
こうした家のつくり方は、私の“キャラ”にも合っていると思っています。私はいわゆる建築家としてイメージするような「先生」にはなれないし、「今日こんな魚が入ったから、こうして料理したら美味しく食べられるよ」と言ってくれる近所の魚屋さんのような「設計者」になりたいし、それが私に似合っていると思っています。
さて、私がどんなふうに「住まい手らしさをかたちにするか?」という話ですが、それは当然ながら「こうする」というような“一般解”をここで示すことはできません。本当にそれは「様々」だからです。いくつかの実例を施工事例にてご紹介させて頂いていますのでご覧ください。この内容がわかってもらえると思います。