1-5 長寿命の為の備え

100年経ってもそこに住み続けられている。

おそらく、この事実がその住まいの価値の明確な評価になると思います。どう考えてもそんなことはあり得ませんが、もし、私の設計した住まいが100年経っても住み続けられているのを見たとしたら、そんなにうれしいことはないでしょう。設計者冥利に尽きます。

だから私は「長寿命の住まい」を目指します。100年という具体的な数字を挙げることはできませんが、
できる限り長く住み続けられる家を設計したいと考えています。

1)空間の美しさがあり、心地よい暮らしがそこに見えること

西条・シーサーの住む家
その家に住む第1世代が「もう要らない」と手放してしまうのはあまりにレベルが低いので考えないとして、その次にその家に住むことを検討しているところを想像します。
そのときに「この家を大事に引き継ぎ、ここで暮らしたい」と思ってもらえる最初の条件は「空間の美しさ」であり、そこでの心地よい暮らしが“見える”ことだと思います。
そうした空間をつくることは、当然その家に住む第1世代、つまりその家を建てた家族にとっても高い価値を持つことは間違いありません。

設計者に求められるもの、期待されるものはたくさんあります。

その中にはいわゆる「デザイン性の高さ」も含まれるでしょう。もちろん私もその期待に応えたいと思っています。

ただ、私が追求したい「デザイン(視覚的なデザイン)」は個性の強いもの、奇抜なものではありません。よほどの天才でもない限り、そんなデザインをもった住 宅は時代を超えて評価されることはないと思っています。国内でも海外でも、時代を超えて評価される建築家の住宅作品は、落ち着いたデザインでありながら豊 かな空間をもち、そこで心地よい暮らしができる住まいです。私はそんなデザイン、空間力をもった住宅をつくりたいと考えています。


私はこの「長寿命にための備え」のところで、初めて「デザイン」のことを取り上げました。その意味がわかってもらえるとうれしいです。「住み続けられることが最高の評価」という価値観をもって住まいの設計、そしてデザインに向かっているわけです。

2)健全な構造体を備えておくこと

「建築物」のもっとも本質的な基盤となるものは、そこに生まれる空間を成立させ、その空間を保持することです。もちろん住宅もその例外ではありません。この「本質的な基盤」がすなわち「健全な構造体」です。
これはどう考えても真理なので、建築に携わるものがその構造を軽視するのは本質を見誤っているとしか思えません。その空間での暮らしも、健全な構造が成立していることが大きな条件となります。
とくにこの国では地震が頻発し、大きな台風も訪れます。「健全な構造体」に求められるレベルは高いのです。
ただ、難しいのは「どこまで強くするか?」というところです。構造の強さは、たとえば「窓を大きくたくさん取る」ということや「広い空間をつくる」ということと対立します。このバランスをどこで取るかが実際の設計において非常に悩ましいテーマになります。

私は「大きな地震が来ても倒壊しない」というレベルを“最低限備えるべきレベル”として設定し、そこから様々なバランスを考えながら「でき る限り強く」という姿勢をもって設計していくことにしています。この構造設計も専門性が非常に高いので、専門家にアドバイスを求めながら「最良」と思われ る答えを見つけ出していきます。

3)劣化に備えること

時間の経過とともに、住まいも劣化していきます。これはどうしようもない事実です。でも、それをきちんと事実として受け止めることで、その対策が見えてきます。「劣化に強い住まい」をつくることができます。
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より重大な劣化から考えていきましょう。

まずは「水」です。水は木材を腐らせ、金属を腐食させます。
建物の強敵になるものです。

そこで何より避けないといけないのが「雨漏り」です。
とくに定常的な雨漏りが大きな問題を発生させます。

雨漏りは「無理な設計」と「施工者の経験・知識不足、雑な工事」によって起きることがほとんどです。私の立場とすれば、無理のある設計をしないこと(いくらデザイン的に魅力があっても雨漏りさせないことを優先すること)、そして「工事監理者」として工事内容をきちんとチェックすることが役割となります。ついでに付け加えておけば、私が定番としている「切妻屋根」は雨漏りのリスクがとても小さい屋根の形です。

また、根本的な対策とはなりませんが、できる限り腐りにくい木の種類(桧や杉など)を選んで、土台や柱に使うようにしています。

もうひとつ注意しなければならない「水」は結露です。

とくに壁や屋根の内部で起きる「内部結露」と呼ばれるものは、知らないうちに構造材を腐らせる ことになるので注意が必要です。とくに断熱性能を高めることで内部結露のリスクが大きくなることから、ここはしっかりと考えておかねばなりません。


しかし、実際の対策はそれほど難しいものではありません。

内部結露がどうやって起きるかを知っていれば、「壁や屋根の中に湿気を入れない」ということを基本に十分な措置をすることができます。


次はシロアリです。日本に生息するシロアリは「地下」に巣があるものがほとんどなので、シロアリが地下から建物に移動する経路を断つことが極めて有 効な対策となります。ベタ基礎にすることを基本に(ベタ基礎は地盤からの湿気対策としても、また構造的にも有利な方法です)、可能な限りその経路を断つよ うな設計をしています。また先に述べた桧や杉などはシロアリにも強い樹種です。

次は材料そのものの「劣化」です。屋根や外壁に使う材料は紫外線、熱、雨などによって劣化していくので、デザインとのバランスを考えながら、できるだけ劣化しにくい材料を選ぶようにします。

また部屋の中に使う床材や壁材も劣化します。いま一般的に使われているビニルクロスやフローリングはせいぜい1世代(30年くらい)しか持ちませんし、こ うした素材は時間の経過とともに情けない状態になっていきます。それに比べ、左官材料やムクのフローリングは時間の経過が味わいを深めていきます(古い民 家が持つ味わいを想像してください)。だから私はそうした材料を選んでいます。とくにフローリングはワックスをかけるなどのメンテナンスも大切ですので、 そのあたりについてもアドバイスします。


配管への配慮も大切です。配管でのトラブルは厄介なので、まずはそうしたトラブルがないようにすることが必要ですが、

もしものためと、配管の交換が必要になるときのために、配管の方法を工夫します。


最後はメンテナンスです。私が設計した家で住まいに関連した相談事があれば、みなさん私に連絡をしてくれます。

設計段階からメンテナンスのことについても説明していますが、私は何よりそうして気軽に連絡をもらえる関係づくりが大切だと思っています。



≪1-6 住まい手らしさを 「かたち」 にする